2022/04/25 00:34

 


 李さんに何があったのかはわからなかったが、とにかくそこを離れなければならなかった。私は受け取った南京錠をかけ、落とし物がないか確かめて、家に帰った。李さんは帰っていなかった。様子がただ事じゃなかったのが気がかりだったが、下手に探し回るよりは、ここで待っていた方が良さそうだった。


李さんが、おそらく中から持ち出してきたノートを、明るい場所で改めて見た。表紙には、表にも裏にも、何も書いていない。パラパラとめくってみると、右端のページから半分くらいが縦書き、左端のページから数ページほど、横書きの書き込みがあった。なにかのスケッチみたいなのも見えた。縦書きの最初のページには、真ん中に大きくタイトルらしきものが書いてあった。

「森澤家大十三結社之秘傳」

* * *

李さんは、それから1時間くらい後に帰ってきた。震えは止まっていたが、顔に血の気がなかった。まだあんまり大丈夫そうには見えなかった。

──大丈夫?心配したよ。
──ごめんなさい。どうしても耐えられなくて、吐いてきちゃいました。

…うちのトイレで吐けばいいのに。気を使ったのかと思ったが、それだけではなさそうだった。防空壕の中で何を見たのかわからないが、余程の衝撃だったのだろう。ひとりで落ち着きたかったのかもしれない。

中に何があったのかを聞きたかったが、李さんは疲れ切っていた。よし、特別だ。李さんを私のベッドまで連れて行くと、ほとんど卒倒するようにして寝てしまった。ちゃんと寝息を立てているのを確かめて、寝室を出た。1日くらい、私が座布団でも構わない。

もう一度、ノートを開いてみる。縦書きの方は、頭が痛くなるほどの旧漢字、旧仮名づかいの古い日本語だった。日本語を読めない李さんが、あの短時間でこれを見て動揺したとは思えない。が、わざわざ持ち出してきたのは、ここに重要なことが書いてあると思ったからだろう。私は、少しずつメモを取りながら、ノートを読み始めた。

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