2022/04/22 22:35
← Prev
バイトから帰ると、李さんはもう帰宅していた。早速着替えたらしい、春らしい服装の違和感はすごかった。私は店長から聞いた話を、かいつまんで李さんに話した。李さんの方はというと、なんと服を買ったあと、またあの空き家に行っていたらしい。
──手がかりといえば、あそこしかないので。家の中を見てきました。
──入れたの?ていうかそれ、不法侵入だよ?
──玄関は鍵がかかってましたが、裏の物置から入れるところがあったんです。何も盗んでないし、非常時ですから仕方ない。大丈夫、誰にも見られませんでした。
そんな個人的な非常時が通用するわけないんだが。
──それで、何か見つかった?
──何も。びっくりするくらい、何もありませんでした。
──そっかあ。
──何もなさすぎた。空き家って、もっとゴミとか茶碗とか落ちてるもんだと思いましたけど。そういうのもなかった。古いけど、超きれいでした。
「超きれい」とかの言い回しは、日本で働いているうちに身についちゃったのだろうか。
確かにネットなんかで廃墟の写真を見ると、ほとんどは残されていた家財道具なんかが荒らされて、散らかっている。李さんが入れたくらいだから、他にも物盗りとか、いたずら目的の侵入はあっただろうに。
──時々誰かが来てるのかもしれない、って店長は言ってたけど。
──そうかも知れません。あと庭の、ええと、
──防空壕?
──それです。ちょっと気がついたんです。
──何に?
──鍵が新しいんです。蓋はあんなに錆びているのに。
私は昼間の妄想が蘇って、ゾッとした。本当に中に誰かいるんだろうか。私がそう言うと、
──それはない。あの鍵は外からしか開けられません。誰かいたとしても、出られません。
──ああそっか。
いずれにしても、そこが怪しいのはほぼ確実だった。
──李さんは、あの防空壕の秘密を見ちゃったんじゃないかしら。何かはわかんないけど、そのショックで記憶をなくしたとか。
──2回もですか?もしかしたら今回日本に来る前に、一度記憶が戻ったのかもしれません。でも思い出したからって、どうしてもう一度来たんでしょうね。
また行き止まりだった。
ちなみにこのあと雑談していて聞いたのだが、トキカケ…「時をかける少女」は、中国語版も発行されているらしい。アニメも見ました、と李さんは言っていた。原作は50年以上も前のものなんですね、日本はすごい。と言われて、私のほうが驚いた。