2022/04/26 10:13

 

朝の通勤や通学が終わった時間を見計らって、私達はまた、あの防空壕を訪れていた。通行人にさえ気をつければ、ここに人が来る心配はなかった。あと1324日、3年後の12月までは。

──ノートを返してくるだけだよね?
──もちろんです。あんなもの、そう何度も見たくないです。

もう読んだ後だったけど、念のため、ノートはすべて写真に撮った。もっとじっくり読めば、他にも何か、見つかるかも知れない。そんな僅かな望みからだった。

ノートさえ正確に戻しておけば、持ち出したことには気づかれないだろう。彼らは一族を守るため、当面は李さんをこのままにするはずだ。それがいつまでなのかは、わからない。彼ら全員が、死を決意した時。あるいは、もっと都合のいい「代理人」が見つかった時。

鍵を閉めたことを確かめると、李さんは立ち上がった。

──では、3年後の冬に。今度は、ちゃんと先にビザを取って、戻ってきます。日記も、毎日書きます。

李さんは僅かな荷物を詰めた、私の古い旅行鞄を下げていた。そして昨日の帽子をまた、かぶっていた。その様子はあまりにもちぐはぐでおかしかったが、今の私はそれを笑う気分ではなかった。

──ご家族には、なんて話すの?
──結局わからなかったから、諦めたと。すべてを話したら、私が狂ったと思うでしょう。私だって、まだ実感がないのです。

それは私も同じだった。李さんは、ちゃんとここにいる。私と話して、差し出した私の手を握っている。その手は、大きくて温かい。

──本当に、元に戻れると思う?そんな方法があるって?
──わかりません。でも、必ずあると思って探さなければ、見つけることはできません。生きている限り、見つかるまで、探し続けます。
──そうだね。見つかるよう、祈ってるよ。

生きている限り。
李さんは、死ぬことを選ばなかった。だが、生き続けることも、選ばなかった。

諦めてなんか、いなかった。


それからしばらくして、ネット上に不意に現れた、奇妙なウェブサイトの噂を聞いた。
名前は違っていたが、私は彼が誰なのか知っている。

同じ頃、私は李さんからの手紙を受け取っていた。