2022/04/21 08:21
翌朝、李さんは起きてくると私の前に立ち、お願いがあります、と切り出した。
このまま帰国した方が良いのはわかる。でも、原因がわからないことにはまた、3年後に同じことが起きるかもしれない。そうなれば、また私に迷惑をかけてしまう。
自分の記憶喪失には、明らかにあの暴行事件が関係している。調べてわかることではないかもしれないが、こちらにいる間に、できるだけのことはしたい。ついては数日ここに置いてくれないか、と。
──もちろん、食費や電話代などの費用は、帰ってからお返しします。無理を言っていると思います。でも私には、あなたしか頼れないんです。
なんとなく、李さんがそう言い出すんじゃないかという気は、私もしていた。そんな風に言われてしまうと、断るのも気が引ける。だが仮にも成人男性を何日も家に泊めるのは…って、気にするような世間体なんか、とっくにないけれど。
──それにしたって一度帰国してから、ちゃんと準備して、出直したほうが良くない?
──私はまた、パスポートを持っていない。きっと今回も、不法入国です。2回めです。帰ったら、次にいつ来られるか、わかりません。
なるほど、もっともだ。
あまり詮索してくるようなご近所はいなかったが、もし聞かれたら、従兄弟だとでも言っておけばいいか。李さんは喋らなければ、見た目には外国人とはわからなかった。
──わかった。でも、無理しちゃだめだよ。電話は使っていいから、ご家族にはきちんと話してね。
あまり面倒事に関わりたくはない…と、思っていたのだが。
結局、自分から飛び込んでしまったのだな。思えば3年前に李さんを家に入れた時点で、もはや手遅れだったのだ。
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