2022/04/22 15:43

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バイト先のコンビニは2000年ごろにできたところだが、店長はもっと昔からこの街に住んでいる人だった。井戸の話も、この店長から聞いたのだ。ひとしきり品出しやフロアの掃除をして、少し時間が空いたときに、例の空き家のことを聞いてみた。

──あーあの幽霊屋敷ね。
──幽霊が出るんですか?

私はあまりオカルトは信じない方だったが、あれだけ古くて、近くにお寺まであれば、幽霊の噂があっても不思議はない。

──出る出る。俺も見たんだよ。
──えっ。
──ここができて、ひと月ぐらいの頃かなあ、家に帰ろうとしてあの道を横切ったとき、何の気なしに道の奥を覗いたら…人が出てきたんだ。ふらーって。あそこらへん、他に出入りできる家ないだろ?
──持ち主が見に来たんじゃないですか?
──夜中だよ?そんで向こうの方に歩いてったから、すぐ暗くて見えなくなっちゃった。気味悪かったんで、それ以上は追っかけてないけど。
──持ち主じゃないとしても、普通に人かもしれないじゃないですか。肝試ししてたとか。

実際、私達も(勝手に)入ったわけだし。コンビニができた頃だったら、李さんの事件よりも前のことだ。他にも人が出入りすることがあるのだとすれば、あまり不用意に入るとまずいのかもしれない。

──うーん、そうなのかなあ。その時しか、あそこから人が出てくるのを見たことないんだけど。
──まぁ、実際夜にそんなの見たら、怖いのはわかりますけど。
──そのあと、白骨事件もあったしなあ。それで幽霊だと思ったのかも。
──なんですかそれ。
──1回騒ぎがあったんだよ。もっと最近の話で、あの家じゃなくてお寺の方だけど。白骨化した死体が出たんだ。ニュースにもなったはずだよ。もうあんまり覚えてないけど。

それはちょっと、調べてみたほうがいいかもしれない。

──そういえばあの家、庭に井戸ありますよね。妙にでかい…
──あれ井戸じゃないよ。防空壕。
──防空壕?
──俺も親から聞いただけだけど、戦時中には、あちこちに作られたらしいよ。いつ空襲になってもおかしくなかったから。でも今は殆どが潰されてて、残ってるものも大抵入り口が塞いである。素人が作った間に合わせも多いからね、子供が入ったりして崩れたら大変だ。
──なるほどー。つまりシェルターですね。
──今風にいうと、そうかな。そこまで立派なもんじゃなさそうだけど。

戦争か。80年くらい前には、まだ日本でも戦争してたんだ。学校でひと通りは教わったけど、祖父母を早く亡くした私にとっては、どこか別の国の話みたいに感じられた。もうすぐ還暦だという店長でさえ、戦争のことは知らない世代だ。

──え、てことはあの家って、そんなに古いんですか?
──俺が物心ついた頃には、もう空き家だったよ。その頃はまだそんなに古くなかったし、他にある空き家より傷みが少ないとこ見ると、たしかに時々誰かが来てるのかもしれないなあ。地主さんだかなんだか、お金持ちの家だったみたいだよ。

お客さんがまとまって入ってきたので、そこで話は終わった。

防空壕。ということは、中に人が入れるスペースがある。例えばそこに誰かが隠れて住んでいた…なんてことはあるのだろうか。お寺で見つかったという白骨体を殺した犯人が隠れていて、李さんはそれを見てしまって、口封じに殺されかけた…いや、それならもっと確実に殺すよな。

あるいは…白骨体を殺したのが李さんで、国に帰ったというのは嘘で、実はずっとあの防空壕に隠れていた…?

それはありえない。
私のスマホには間違いなく、国際電話の履歴が残っていた。李さんから届いた手紙は、国際郵便だった。それにずっと地下に隠れていたのなら、二度も私の家に現れる理由も思い当たらない。服装やなんかも、ちゃんとその日に身支度して出てきたように、清潔だった。

だいたい、あの李さんに人が殺せるとはとても思えなかった。人なんて見た目ではわからないものだが、私が知っている李さんはいつも窮状にオロオロしていたし、残って調査すると決めてからも、私に余計な迷惑をかけまいと、いつも気を使っているようだった。悪い人のようには見えないし、隠し事をしているようにも見えなかった。

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