2022/04/20 23:34
時間はかかったが、私が覚えてる範囲で李さんに今の状況をなんとか説明した。
今は2022年で、李さんは直前までの記憶をなくしているらしいこと。3年前にも同じことがあって、一度は家族のところに帰っていること。李さんがその後に送ってきた手紙も見せた。李さんは気味悪そうに、その明らかに自分の筆跡で書かれた文字を、目で追っていた。
李さんは記憶が戻るどころか、前回私に会ったことや、その後帰国して今日までの記憶までなくしていた。李さんの記憶は、2015年に誰かに襲われたところで、きっちり止まっていた。そしてまたもや、その時と同じ場所で目を覚ましたのだ。
都合7年分の記憶を失ったわけだ。私は李さんに同情した。
──パスポートがありません。盗まれた。
李さんが、前と同じことを言った。たぶんまた入管に問い合わせれば、帰国はすぐできるだろうとは思う。2回目だし、怒られそうだけど。でも、それでいいのかな…。
私は少し、考えをまとめようとした。が、あまりにも現実離れしていて、すぐには何をどうすればいいのかわからない。
──すみません、電話を貸していただけますか。家族に連絡したいです。
あ、そうだよな。前回同様、どうやってここに来たのか、なぜここに来たのか、わからないのだ。既に深夜の時間だったが、あちらでも李さんを探しているかも知れない。国際電話がどのくらいかかるものかは知らなかったが、貸してやらないわけにはいかなかった。無事を知らせるのが先決だ。私は李さんに携帯電話を貸した。
マシンガンのような中国語のやり取りが、電話越しにも聞こえてきた。何を話しているかはさっぱりわからないが、ご家族もかなり動揺しているらしい。なんだかんだで20分は話していただろうか。
電話が終わって、李さんが向こうの状況を話してくれた。ご家族──お姉さんだそうだ──によると、李さんは今日、予約していたカウンセリングを受けに家を出て、それっきり帰ってこなかったのだという。夜になっても帰らないので問い合わせると、カウンセリングをするクリニックへは行っておらず、持たせていた携帯電話も繋がらなくなっていた。朝までに連絡がなかったら、警察に届けるつもりだったそうだ。
今日?
台湾からここまで、そんなにすぐ来られるものなんだろうか。後で聞いたところでは、半日もあれば来られない距離ではないらしい。それにしても、ずいぶんと無茶な移動だ。
家族に連絡がついたことで、少し落ち着いたのだろうか。李さんは早々と私が用意した座布団を並べて、寝てしまった。私はとても眠れそうになく、しばらくテーブルに向かってあれこれと考えを巡らせていた。
